レオン・スピリアールト(Léon Spilliaert、1881〜1946)は、ベルギーの画家。しばしば象徴主義と結びつけて語られるが、理想化された象徴や寓意に安易に寄りかからず、独自の感覚で作品をつくり続けた。文学テクストへの応答から出発し、女性像の表現を問い直し、率直な自画像の連作を通じて自らの内面にも向き合った。液状のインクを用いたしなやかなウォッシュに、ときおり差し込む色彩も特徴のひとつである。
本書が焦点を当てるのは、その画業のなかでは比較的静かな位置を占める、室内画と静物画である。人のいない部屋、見慣れた片隅、簡素な物。それらは抑制された明快さで描かれているが、人物がいないぶん、空間や物そのものの存在感が強く立ち上がってくる。
スピリアールトは、グザヴィエ・メレリー(1845〜1903)にも通じるように、空間や物に独自の生命を感じ取ろうとした。家庭内の生活と制作の場、暖炉のそば、書斎の一角、温室、音を出さないピアノ、育ちゆく観葉植物。写真を思わせる切り取り方や思いがけないアングルを使いながら、同じモチーフに何度も立ち返っている。
1909年頃、病に伏していた時期には、病室に置かれた身近な物から静物の主題を見いだした。カラフェ、ティーポット、カップ。あるいは瓶やフラスコ、貝殻、脱ぎ捨てられた手袋。スピリアールト自身が述べたように、物はある瞬間、それまでの名前や用途から切り離され、まったく別の姿を見せることがある。そうした感覚は、のちのシュルレアリスムにも通じるものとして読むことができる。
図版を多く収めた本書には、スピリアールトの生涯と作品に通じた研究者たちが新たなエッセイを寄せ、それぞれの専門から、この作品群がどのように生まれたのかを考察している。編者はアンヌ・アドリアーンス=パニエとエドゥアール・デロム。ステファン・ハイヘバールト、マリー=ノエル・グリゾンも寄稿している。ブリュッセルのパトリック・デロム画廊で2026年夏に開催された展覧会にあわせて刊行された。
物体が名前や用途から離れ、ただそのものとして現出する。そうした瞬間を、スピリアールトは人のいない部屋や手近な静物に見いだしていた。
【展覧会】
「Léon Spilliaert: Through Half-Open Doors」
2026年6月3日〜8月14日
Patrick Derom Gallery(ベルギー・ブリュッセル)
https://patrickderomgallery.com/exhibitions/10-leon-spilliaert-through-half-open-doors/
【詳細】
ハードカバー / 128ページ / 253×328mm(横×縦) / 言語:英語 / 刊行年:2026年 / 印刷:4色刷り / ISBN: 9789493531017 / 状態:新品
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